にせ金
3行でわかるあらすじ
酔った士族の旦那が道具屋の金兵衛に「キン」を切って持ってこいと命令。
金兵衛は蛸の頭で偽物の「キン」を作り、50円で旦那に売りつける。
結局金兵衛は「にせ金づかい」という罪名でお仕置になるオチ。
10行でわかるあらすじとオチ
士族の旦那の家に道具屋の金兵衛が書画の代金三円を受け取りに来る。
酒好きの旦那が酒を勧め、二人ともすっかり酔ってしまう。
旦那が朋友の会で珍品を持ち寄ると言い、金兵衛の「キン」を切って持ってこいと命令。
代金は50円、拒めば出入り禁止だと脅す。
翌朝、二日酔いで何も覚えていない旦那のところへ金兵衛が「キン」を持参。
旦那は不覚だったと反省しながらも、武士の二言はないとして支払う。
包みを開けると蛸の頭に毛を刺した偽物で、猫が寄ってくる生臭いもの。
旦那は50円を詐欺されたと気づき、三日後に金兵衛は逮捕される。
罪名は「にせ金づかい」でお仕置になったという言葉遊びのオチ。
解説
この噺は、酒の勢いで出た下ネタ的なやりとりが、翻って詐欺事件に発展する異色の落語です。
「キン」という下品な話題から始まりながら、最終的には「にせ金づかい(偽金使い)」という罪名で落ちる絶妙な言葉遊びが秀逸です。
士族の旦那と道具屋という身分の違い、酔った勢いでの無茶苦茶な要求、そしてそれを逆手に取った金兵衛の狡献さなど、様々な人間の欲望や本性が描かれています。
蛸の頭で作った偽物の描写も具体的で、猫が寄ってくる等の細かい描写がリアリティを墜加しています。
「にせ金」という題名も、一見下品な印象を与えながら、実際には偽金使いという罪名を暗示する二重の意味を持つ巧みな仕掛けとなっています。
この噺はユーモアと同時に、酒の席での軽々しい約束が思わぬ大事に至る教訓も含んでいると言えるでしょう。
あらすじ
士族の旦那の家へ、出入りの道具屋の金兵衛が書画の代金三円を受け取りに来る。
酒好きな旦那は金兵衛に酒を勧め、二人はすっかり酔って出来上がってしまう。
旦那 「折り入ってそちに頼みたいことがあるのだが・・・」
金兵衛 「当家には先代様からのご贔屓(ひいき)をいただいております。その御恩に報いるためにはこの金兵衛たとえ命でも捨てる覚悟・・・」と、酔った上での大言壮語だ。
旦那も調子に乗って、
旦那 「そうか、頼みを聞いてくれたなそなたの店を東京一にしてやるぞ」と、こっちも大ホラを吹く。
旦那 「今度、朋友が集まって珍物を持ち寄って楽しむ会をも催すことと相成った。
と言うものの拙者にはそのような持ち物はない。そこで思案の末浮かんだのが・・・そなたのアレじゃ・・・」
金兵衛 「アレと申しますと・・・」
旦那 「ソレじゃ、そなたのキンだ。
噂では稀代の逸物というではないか。
是非とも切り取って譲ってもらいたい。
明朝八時までに持ってくれば、代金五十円やる。いやなら即刻、出入り禁止だ」、すっかり酔いも醒めて、
金兵衛 「稀代の逸物なんてのはいい加減な噂でして人前で誇れるような代物では・・・」だが、もう遅い。
そのうちに旦那は酔いつぶれて寝てしまった。
翌朝、すっかり二日酔いで、昨晩のことなど何も覚えていない旦那のところへやって来て、
金兵衛、「お約束の品物を持って参りました」
旦那 「なに、飲み過ぎて覚えておらんが、わしがなにか骨董品でも頼んだのか?」
金兵衛 「なにを今さら、切って持って来いと言われた私のキンでございます。どうかお約束の五十円と引き換えにお納めください」
旦那 「なに、わしがそんなことを言ったのか。・・・それは酒の上の事とはいえ不覚だった。・・・仕方がない、わしも元は武士、二言はない。
五十円はつかわそう。
ただしこの事は絶対に口外するな。これは口止め料の五円だ」と言って金兵衛を追い返す。
旦那は馬鹿なことをしたと反省しながら、気持ち悪そうに金兵衛のキンの包を開けた。
すると生臭い匂いが漂い始め、猫が寄って来てじゃらついている。
よく見ると蛸の頭を二つ生ゆでにして毛を刺しただけの真っ赤なにせ金玉。
旦那 「あやつ、こんなもんで騙しおって、五十円誤魔化された」
それから三日と経たないうちに、金兵衛はお召し捕りなって、「にせ金づかい」という事でで、お仕置きになった。
この噺は、酒の勢いで出た無茶苦茶な要求を逆手に取った詐欺と、「にせ金づかい」という言葉遊びのオチが秀逸な作品です。
落語用語解説
にせ金(にせきん)
偽の金銭のこと。この噺では「偽物のキン」と「偽金」の二重の意味を持つタイトルになっています。最後のオチ「にせ金づかい」で全てが繋がる巧妙な言葉遊びです。
士族(しぞく)
明治維新後の旧武士階級。この噺の旦那は元武士の士族で、「二言はない」という武士の矜持を持っています。
道具屋(どうぐや)
骨董品や古道具を扱う商人。金兵衛は士族の家に出入りする道具屋で、書画などを売買しています。
朋友(ほうゆう)
友人のこと。旦那は朋友たちと珍品を持ち寄る会を開くと言い、金兵衛のキンを要求します。
珍物(ちんぶつ)
珍しい品物。旦那の会で持ち寄る予定の品で、金兵衛のキンを珍物と称して要求する場面が滑稽です。
二言はない(にごんはない)
一度言ったことは撤回しないという武士の誓い。旦那は酒の席での約束でも守ろうとする武士の意地を見せます。
贔屓(ひいき)
特別にかわいがること。金兵衛は「先代様からのご贔屓」と言って旦那の家との長い付き合いを強調します。
出入り禁止(でいりきんし)
商人が得意先への出入りを禁じられること。旦那は金兵衛に「いやなら即刻、出入り禁止」と脅します。
口止め料(くちどめりょう)
秘密を守らせるために渡す金銭。旦那は恥ずかしい買い物を秘密にするため、5円の口止め料を払います。
蛸の頭(たこのあたま)
蛸の胴体部分。金兵衛はこれを生ゆでにして毛を刺し、偽物を作りました。猫が寄ってくる生臭さが描写されています。
お召し捕り(おめしとり)
罪人を逮捕すること。金兵衛は詐欺の罪で捕まり、お仕置になります。
にせ金づかい(にせきんづかい)
偽金使いの罪。オチの言葉で、「偽物のキンを使った」と「偽金を使った」の二重の意味を持つ秀逸な落ちです。
よくある質問 FAQ
なぜ旦那は酒の勢いで無茶な要求をしたのですか?
酒に酔って判断力が鈍り、下ネタで盛り上がってしまったからです。士族の旦那と道具屋という身分の違いもあり、旦那は軽い気持ちで命令したのでしょう。これは酒の席での軽率な発言の危険性を示しています。
なぜ金兵衛は蛸の頭で偽物を作ったのですか?
形や色が似ていたからです。生ゆでにした蛸の頭は赤くて丸く、毛を刺すとそれらしく見えます。しかし生臭くて猫が寄ってくるという描写が、偽物であることを強調しています。
なぜ旦那は約束を守ったのですか?
「武士に二言はない」という矜持があったからです。酒の席での約束でも、一度言った以上は撤回できないという武士の意地が、結果的に詐欺に遭う原因になりました。
このオチはどこが面白いのですか?
「にせ金づかい」という言葉が、「偽物のキンを使った」と「偽金を使った」の二重の意味を持つ点です。下ネタから始まった話が、最後は正式な罪名で落ちるという言葉遊びの巧妙さが秀逸です。
なぜ金兵衛は捕まったのですか?
50円を詐欺で騙し取ったからです。旦那が被害を届け出たため、金兵衛は逮捕されました。酒の勢いを利用した詐欺は立派な犯罪です。
この噺の教訓は何ですか?
酒の席での軽率な約束が大事に至る危険性です。旦那は酔って無茶な要求をし、金兵衛はそれを逆手に取って詐欺を働きました。双方とも酒が原因で失敗したという教訓的な物語です。
名演者による口演
この噺は下ネタを含む異色の演目で、演者の品格と滑稽さのバランスが重要です。多くの名演者が演じてきました。
- 三遊亭円生 – 品格を保ちながら滑稽さを表現し、士族の旦那の矜持と愚かさを巧みに描いた名演
- 古今亭志ん生 – 下品になりすぎず、人間の欲望と愚かさをユーモラスに表現した名演
- 柳家小三治 – 酒の席の雰囲気と、翌朝の後悔を丁寧に描写した繊細な演出
- 立川談志 – 社会風刺を効かせ、身分制度と人間の本性を辛辣に描いた独特の解釈
- 桂米朝 – 上方落語的な柔らかさで、金兵衛の狡猾さを温かく描写した名演
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この噺の魅力と現代への示唆
「にせ金」は、酒の勢いで出た無茶苦茶な要求を逆手に取った詐欺と、「にせ金づかい」という言葉遊びのオチが秀逸な作品です。士族の旦那は酔って金兵衛に下ネタ的な要求をし、金兵衛はそれを真に受けて蛸の頭で偽物を作り、50円を騙し取ります。
この噺の面白さは、複数の要素が絡み合っている点にあります。まず、酒の席での軽率な約束という普遍的なテーマ。次に、「武士に二言はない」という矜持が裏目に出る皮肉。そして、下ネタから始まった話が正式な罪名で落ちるという言葉遊びの巧妙さです。
「にせ金づかい」というオチは、「偽物のキンを使った」と「偽金を使った」の二重の意味を持ち、噺の全体を鮮やかにまとめています。下品な話題から始まりながら、最終的には法的な罪名で落ちるという展開は、落語の言葉遊びの醍醐味を示しています。
現代社会でも、酒の席での軽率な発言や約束が後々問題になることは珍しくありません。SNSの普及により、酔った勢いでの投稿が炎上することもあります。この噺は、酒と軽率さの危険性を、笑いとともに教えてくれる教訓的な作品です。
江戸時代の身分制度と人間の欲望が詰まった、言葉遊びと社会風刺が同居する名作です。
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