二番目
3行でわかるあらすじ
婚礼後の商家に芝居好きの泥棒が忍び込み、酔って石川五右衛門の名台詞を始める。
小僧たちが三味線や鳴り物で伴奏し、泥棒の芝居に付き合って楽しむ。
最後に二階では新婚夫婦が『二番目狂言』を演じていたというオチで終わる。
10行でわかるあらすじとオチ
婚礼が終わった商家に芝居好きの泥棒が忍び込み、使用人たちは全員酔いつぶれて寝ている。
泥棒は酒宴の残り物の酒を飲んで酔っぱらい、「お泥棒さまがへえったぞ」と大声で喚く。
定吉と亀吉という小僧たちが目を覚ますが、恐くて寝たふりをしている。
泥棒は「さあ、石川五右衛門がせり上がっていくぜぇ」と二階へ上がっていく。
小僧たちは「芝居好きの泥棒だな」と気づき、三味線や金盥で伴奏してやることにする。
泥棒は楼門五三桐の「絶景かな、絶景かな」の名台詞を語り、小僧たちも羽柴久吉の役で参加する。
「石川や浜の真砂は尽くるとも、世に盗人の種は尽きまじ」の名台詞で站ち回りが繰り広げられる。
亀吉が「婚礼にご容赦(巡礼にご報謝)」と洒落なダジャレで締めくくる。
しかし真のオチは、二階で新婚夫婦が「二番目狂言」(世話物の男女の濑れ場)を演じていたこと。
歌舞伎用語の「一番目物(時代物)」と「二番目物(世話物)」の言葉遊びが絶妙なオチ。
解説
「二番目」は、元々「芝居好きの泥棒」という題名で、艶笑落語として演じられていましたが、一般向けに演じる際には「二番目」という別題が使われるようになりました。この噺の面白さは、歌舞伎の専門用語を知っていないと理解が困難な高度な言葉遊びにあります。
歌舞伎の演目は伝統的に「一番目物」と「二番目物」に分かれていました。「一番目物」は時代物狂言で、武士や武将が主人公の歴史的な演目です。一方、「二番目物」は世話物狂言で、町人や農民の日常生活を描いた演目で、男女の濑れ場が付き物でした。
この落語では、最初に泥棒が演じる石川五右衛門の「楼門五三桐」は「一番目物」の代表作です。そして、二階で新婚夫婦が繰り広げているのは「二番目物」、つまり男女の濑れ場ということになります。この二重構造の言葉遊びが、この落語の最大の見どころです。
また、泥棒と小僧たちの即興芝居も見どころの一つで、特に亀吉の「婚礼にご容赦(巡礼にご報謝)」というダジャレは、「巡礼」と「婚礼」をかけた洒落な言葉遊びで、江戸時代の庶民の機智とユーモア感覚を示しています。歌舞伎の知識と言葉遊びを駆使した、知的で洗練された古典落語の名作です。
あらすじ
婚礼のあった商家に芝居好きの泥棒が入った。
泥棒は酒盛りのあとがそのままになっている大座敷で残り物の酒を飲んで酔っぱらって、熊坂長範だとか弁天小僧だとか言っている。
その声で座敷の片隅で酔っぱらって寝ていた小僧の定吉が目を覚ます。
定吉 「おい起きろよ亀どん。泥棒だ、泥棒が入ったよ」と小声で、隣で寝ている亀吉を揺り起こす。
亀吉 「知ってるよ。
あたいは泥棒と塩辛は大嫌いだから寝たふりしてたんだよ。盗まれたってどうせ主人の物だから構うことないよ」、すると泥棒は音羽屋を気取って若夫婦の寝ている二階へ上がって行こうとする。
泥棒 「さあ、石川五右衛門がせり上がって行くぜぇ」
定吉 「五右衛門がせり上がるとさ」
亀吉 「芝居好きの泥棒だな。
おれが三味線弾いてやろう。町内に触れ込んで見物人呼んで木戸銭を取ろう」
定吉 「誰が来るもんか」
亀吉 「定どん、台所から金盥(かなだらい)と桶持ってきて叩いておくれ。おれは楼門五三桐の三味線弾くから・・・」、泥棒は鳴り物入りに大喜び。
梯子段の真ん中で止まって芝居ががって、
泥棒 「絶景かな、絶景かな、春の眺めは価千金とは小さなたとえ。
五右衛門が目からは価万両、さすがに永き春の日も、西へ傾く桜の夕暮れ。はて、うららかな眺めじゃなあ~・・・」
定吉 「おい、亀どん、上がっちまうよ」
亀吉 「よし、おれが羽柴久吉になって止めてやらあ」、そばにあった袖無しを着て笈摺(おいずり)の代わりにして、手ぬぐいを頭巾のつもりでちょいと被って、芝居がかって、
亀吉 「石川や浜の真砂は尽くるとも・・・」
泥棒 「ななっ、何がなんと」
亀吉 「世に盗人の種は尽きまじ」、泥棒が「エイッ!」と打ったつもりの手裏剣を柄杓で受けたつもりで、
亀吉 「婚礼にご容赦(巡礼にご報謝)・・・」
落語用語解説
二番目(にばんめ)
歌舞伎の演目構成用語で、「二番目物」とは世話物狂言を指します。一日の興行で一番目に時代物(一番目物)、二番目に世話物(二番目物)を演じる慣習がありました。この噺では、泥棒が演じる石川五右衛門は時代物、二階の新婚夫婦が演じるのは世話物の男女の濡れ場という二重構造の言葉遊びになっています。
石川五右衛門(いしかわごえもん)
安土桃山時代の伝説的な大泥棒。歌舞伎『楼門五三桐』では南禅寺の山門の上で「絶景かな」の名台詞を語る場面が有名です。この噺の泥棒は芝居好きで、自分を五右衛門に見立てて演じます。
楼門五三桐(さんもんごさんのきり)
歌舞伎の演目で、石川五右衛門が主人公。南禅寺の山門(三門)の上から京都の景色を眺めて「絶景かな、絶景かな」と述懐する場面が白眉です。時代物(一番目物)の代表的な演目で、この噺では泥棒がこれを演じます。
絶景かな、絶景かな(ぜっけいかな、ぜっけいかな)
『楼門五三桐』で石川五右衛門が山門の上から京都の景色を見て発する有名な台詞。「春の眺めは価千金とは小さなたとえ、五右衛門が目からは価万両」と続きます。歌舞伎を知る江戸の人々には馴染み深い名台詞でした。
羽柴久吉(はしばひさよし)
豊臣秀吉の若い頃の名前。『楼門五三桐』では巡礼姿に身をやつして石川五右衛門を捕らえようとする役どころです。亀吉はこの役を演じて泥棒と掛け合います。
石川や浜の真砂は尽くるとも(いしかわやはまのまさごはつくるとも)
『楼門五三桐』で羽柴久吉が石川五右衛門に言う名台詞。「石川や浜の真砂は尽くるとも、世に盗人の種は尽きまじ」と続き、「お前のような泥棒はいつの世にも絶えない」という意味です。歌舞伎の名台詞として広く知られていました。
音羽屋(おとわや)
歌舞伎役者の屋号の一つ。尾上菊五郎の家系の屋号です。泥棒が「音羽屋を気取って」とあるのは、五右衛門役を当たり役とする名優を真似ているという意味です。
金盥(かなだらい)
金属製の洗濯や水仕事に使う桶。定吉はこれを叩いて歌舞伎の鳴り物(効果音)の代わりにします。即興で芝居の伴奏をする小僧たちの機転が光る場面です。
笈摺(おいずり)
巡礼者が着る白装束のこと。背中に笈(仏具や衣類を入れる箱)を背負った際の擦れ跡を模した黒い縞模様が特徴です。亀吉は袖無しを笈摺の代わりにして、羽柴久吉の巡礼姿を真似ます。
婚礼にご容赦(こんれいにごようしゃ)
亀吉の洒落たダジャレ。本来は「巡礼にご報謝(じゅんれいにごほうしゃ)」という台詞ですが、その日が婚礼だったため「婚礼にご容赦」と言い換えました。巡礼と婚礼、報謝と容赦をかけた見事な言葉遊びです。
一番目物(いちばんめもの)
歌舞伎の時代物狂言のこと。武士や武将が主人公の歴史的な演目で、一日の興行の最初に演じられました。『楼門五三桐』はこの一番目物の代表作です。
二番目物(にばんめもの)
歌舞伎の世話物狂言のこと。町人や農民の日常生活を描いた演目で、男女の濡れ場が付き物でした。この噺のオチは、二階の新婚夫婦が「二番目狂言」(濡れ場)を演じていたという意味です。
よくある質問 FAQ
Q1: なぜ泥棒は大声で芝居を始めたのですか?
A: 泥棒は芝居好きで、婚礼の酒宴の残り物を飲んで酔っぱらってしまったからです。酔った勢いで「お泥棒さまがへえったぞ」と大声で喚き、石川五右衛門に成りきって「絶景かな」の名台詞を始めました。芝居への情熱が盗みの目的を忘れさせたのです。
Q2: 小僧たちはなぜ泥棒を捕まえなかったのですか?
A: 亀吉は「泥棒と塩辛は大嫌いだから寝たふりしてた」と言い、「盗まれたってどうせ主人の物だから構うことない」という態度でした。さらに泥棒が芝居好きだと分かると、面白がって三味線や鳴り物で伴奏してやることにしました。江戸っ子らしい洒落っ気と機転が光る行動です。
Q3: 「婚礼にご容赦」とはどういう意味ですか?
A: 本来の台詞は「巡礼にご報謝(じゅんれいにごほうしゃ)」ですが、その日が婚礼だったため「婚礼にご容赦(こんれいにごようしゃ)」と言い換えました。「巡礼」と「婚礼」、「報謝」と「容赦」をかけた洒落で、「婚礼の日なのでお許しください」という意味も含んでいます。江戸の言葉遊びの妙技です。
Q4: 「二番目」というタイトルの意味は何ですか?
A: 歌舞伎の「二番目物(世話物狂言)」から来ています。一階では泥棒が時代物の石川五右衛門を演じ(一番目物)、二階では新婚夫婦が世話物の男女の濡れ場を演じていた(二番目物)という二重構造の言葉遊びです。歌舞伎の演目構成を知っていないと理解できない高度なオチです。
Q5: この噺の教訓は何ですか?
A: 表面的には「芝居好きが高じると我を忘れる」という教訓ですが、より深い意味では「人生は舞台、誰もが何らかの役を演じている」という人生観が込められています。泥棒は五右衛門を、小僧たちは伴奏者を、新婚夫婦は夫婦の役を演じています。人生という舞台での様々な「演技」を描いた噺とも言えます。
Q6: なぜ「芝居好きの泥棒」から「二番目」に改題されたのですか?
A: 元々は艶笑落語として「芝居好きの泥棒」という題名で演じられていましたが、新婚夫婦の濡れ場を露骨に描写する内容が問題視されました。一般向けに演じる際には、歌舞伎用語の「二番目」という別題を使うことで、知的な言葉遊びを前面に出した演出が主流になりました。
名演者による口演
三遊亭円生(さんゆうていえんしょう)
六代目円生の「二番目」は、歌舞伎の知識を前提とした格調高い演出が特徴です。石川五右衛門の名台詞を本格的に語り、一番目物と二番目物の対比を明確に示しました。最後のオチも品良く仕上げ、知的な笑いを提供する演目として評価されています。
古今亭志ん生(ここんていしんしょう)
志ん生の「二番目」は、泥棒と小僧たちの掛け合いを生き生きと描いた演出が特徴です。酔っぱらった泥棒の芝居がかった様子、小僧たちの即興伴奏など、登場人物それぞれの個性が際立ちました。「婚礼にご容赦」のダジャレも絶妙なタイミングでした。
桂米朝(かつらべいちょう)
米朝師匠の「二番目」は、上方落語らしい丁寧な人物描写が光ります。泥棒の芝居好きぶり、小僧たちの機転、そして新婚夫婦の様子まで、それぞれの場面が細やかに描かれました。関西弁での歌舞伎台詞も独特の味わいがあります。
柳家小三治(やなぎやこさんじ)
小三治師匠の「二番目」は、即興芝居の臨場感が素晴らしい演出です。泥棒と小僧たちが作り上げる即興劇の楽しさ、歌舞伎への愛情が繊細に表現されます。最後のオチも知的でありながら温かみのある語り口で仕上げています。
立川談志(たてかわだんし)
談志の「二番目」は、歌舞伎パロディとしての側面を強調した演出が特徴です。石川五右衛門の台詞を大袈裟に演じ、歌舞伎を茶化すような笑いを生み出しました。一番目物と二番目物の対比も鮮明で、言葉遊びの妙が際立つ一席でした。
関連する落語演目
七段目
https://wagei.deci.jp/wordpress/shichidanme/
「二番目」と同様に、芝居好きの登場人物が歌舞伎の台詞を語る噺です。「七段目」では若旦那が『仮名手本忠臣蔵』七段目を語り、「二番目」では泥棒が『楼門五三桐』を演じます。どちらも歌舞伎の知識を前提とした高度な笑いがあります。
猫芝居
https://wagei.deci.jp/wordpress/nekoshibai/
猫たちが歌舞伎調で会話するという点で共通しています。「猫芝居」では猫が歌舞伎を演じ、「二番目」では泥棒と小僧たちが歌舞伎を演じます。どちらも歌舞伎のパロディとして楽しめる演目です。
芝居の喧嘩
歌舞伎見物を題材にした噺という点で共通しています。「二番目」が歌舞伎の台詞を直接パロディ化するのに対し、「芝居の喧嘩」は芝居小屋での観客の騒動を描きます。どちらも江戸時代に歌舞伎が庶民の娯楽として定着していたことを示す演目です。
粗忽長屋
https://wagei.deci.jp/wordpress/sokotsunagaya/
小僧たちの機転と言葉遊びという点で共通しています。「二番目」の亀吉と定吉は即興で芝居の伴奏をし、「粗忽長屋」の登場人物たちは粗忽な行動を繰り返します。どちらも江戸っ子の機智とユーモアが光る噺です。
時そば
https://wagei.deci.jp/wordpress/tokisoba/
言葉遊びと機転を使った噺という点で共通しています。「時そば」では鐘の数を数える時の言葉遊びが、「二番目」では「婚礼にご容赦」というダジャレがオチの一つとなっています。どちらも江戸の洗練された言葉遊びが楽しめます。
この噺の魅力と現代への示唆
「二番目」の最大の魅力は、歌舞伎の専門用語を使った高度な言葉遊びにあります。一階では泥棒が時代物の石川五右衛門を演じ(一番目物)、二階では新婚夫婦が世話物の男女の濡れ場を演じていた(二番目物)という二重構造は、歌舞伎の演目構成を知っている人ほど楽しめる知的な笑いです。
この噺が現代にも通じるのは、「即興性」と「遊び心」の大切さを描いている点です。小僧たちは泥棒を捕まえるのではなく、芝居好きだと分かると面白がって三味線や鳴り物で伴奏してやります。この柔軟な対応と遊び心は、現代の「アドリブ力」や「機転」に通じるものがあります。
また、泥棒が盗みの目的を忘れて芝居に没頭する姿は、「好きなことには我を忘れる」という人間の本質を描いています。現代でも、趣味や好きなことに夢中になって本来の目的を忘れてしまう経験は誰にでもあるでしょう。この噺はそうした人間の愛すべき弱さをユーモラスに描いています。
さらに、「婚礼にご容赦」というダジャレは、状況に応じて言葉を巧みに変える江戸っ子の言語センスを示しています。本来の台詞「巡礼にご報謝」を「婚礼にご容赦」に変えることで、その場の状況に合わせた洒落を生み出す機知は、現代のコミュニケーションにおけるウィットやユーモアの大切さを教えてくれます。
最後に、この噺は「人生は舞台」という普遍的なメタファーも含んでいます。泥棒は五右衛門を、小僧たちは伴奏者を、新婚夫婦は夫婦の役を演じています。人生という舞台で誰もが何らかの役を演じているという人生観は、シェイクスピアの「世界は舞台」という言葉にも通じる深い洞察です。
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