奈良名所
3行でわかるあらすじ
喜六と清八が奈良見物中、東大寺の大仏の目玉が体内に落ちる騒動に遭遇する。
老人と孫が見事な連携で目玉を直すが、孫が大仏の中に閉じ込められてしまう。
孫は鼻から抜け出し、「目から鼻へ抜けた」という慣用句でオチとなる。
10行でわかるあらすじとオチ
喜六と清八が奈良の名所巡りで東大寺を訪れると、大仏の片目が体内に落ちる騒動が起きていた。
僧侶たちも手をこまねく中、老人と孫が名乗り出て修理を買って出る。
老人が縄の先に鉤をつけて大仏の瞼に引っ掛ける。
孫が縄を伝って大仏の目まで上り、体内に入って落ちた目玉を拾う。
内側から目玉をはめ込み、見事に修理を完了させる。
見物人は拍手喝采するが、孫が大仏の中から出られなくなったことに気づく。
皆が心配する中、孫は大仏の鼻の穴からスーッと出てくる。
大仏の手のひらに飛び乗った孫を見て、見物人は再び大喜びする。
感心した見物人の一人が「りこうな子だ」と褒める。
そして「目から鼻へ抜けよった」と、慣用句そのままの状況でオチとなる。
解説
「奈良名所」は、奈良の観光名所を舞台にした古典落語で、特に東大寺の大仏を題材にした滑稽噺です。喜六・清八という上方落語でお馴染みのコンビが登場し、彼らの珍道中の一幕として描かれています。
この噺の見どころは、大仏という神聖な存在を題材にしながらも、その目玉が落ちるという奇想天外な設定と、それを老人と孫の見事な連携プレーで解決する様子にあります。特に、小さな孫が巨大な大仏の体内に入って目玉を直すという発想は、聴衆の想像力を大いに刺激します。
そして何より秀逸なのは、「目から鼻へ抜ける」という慣用句を文字通りの状況として再現したオチです。この慣用句は「賢い、機転が利く」という意味ですが、実際に大仏の目(の部分)から鼻(の穴)へ抜け出すという物理的な行動と、その子どもの賢さを同時に表現する、言葉遊びの極致といえるオチになっています。演者は大仏の巨大さと孫の小ささの対比、緊迫感から安堵への転換を巧みに表現することが求められる一席です。
あらすじ
「いにしへの奈良の都の八重桜 けふ九重ににほひぬるかな」、くらがり(暗)峠を越えて奈良へ入った喜六、清八は猿沢池のほとりの印判屋に泊まった。
今日は奈良の名所見物をしてから旅立つ。
興福寺の南円堂、五重塔から鹿せんべいを自分たちで食べながら、東大寺南大門の仁王さんに挨拶して大仏さんの前まで来ると、黒山の人だかりで何やら騒いでいる。
大仏の片方の目玉が体の中に落ちたという。
僧たちもやって来て、どうしたものかと手をこまねいていると、小さな孫を連れた老人がやって来て、自分たちで目を元通りにして見せるという。
老人は縄の先端に鉤(かぎ)をつけて投げ、大仏の下の瞼(まぶた)にうまく引っ掛けた。
今度は孫の出番だ。
縄を伝わってスルスルと目の所まで上り、ピョイと大仏の体内に下りて、目玉を拾い、内側から目玉をスポッとはめ込んだ。
これを見ていた見物人たちは、見事な連携プレーの早業に、やんややんやの拍手喝采だが、すぐに子どもが出られなくなったことに気づき、気を揉んでざわめき出す。
見物人の中には子どもは大仏の中に閉じ込められたまま死んでしまうと可哀そうがり、「ナンマンダブツ、ナンマンダブツ」なんて唱える者までいる。
喜六と清八も気が気でないが、助け出す妙案が浮かぶような輩ではない。
すると子どもが大仏の鼻からスゥーッと出てきて、大仏さんの手の平の上にポンと飛び乗った。
見ていた見物人は大驚きで大喜びで、またもや拍手喝采、
見物人 「りこうな子だ、目から鼻へ抜けよった」
落語用語解説
喜六と清八(きろくときよはち)
上方落語の定番コンビ。喜六はお調子者で間抜け、清八は真面目でツッコミ役。奈良見物に来ているという設定です。
東大寺(とうだいじ)
奈良市にある華厳宗の大本山。この噺の舞台で、奈良時代に建立された巨大な大仏が有名です。
大仏(だいぶつ)
東大寺の盧舎那仏坐像。高さ約15メートルの巨大な仏像で、この噺の中心となる存在です。
暗峠(くらがりとうげ)
大阪府と奈良県の境にある峠。喜六と清八がこの峠を越えて奈良に入ったという設定です。
猿沢池(さるさわいけ)
興福寺の放生池。奈良の名所の一つで、喜六と清八がこのほとりの印判屋(宿屋)に泊まったという設定です。
興福寺(こうふくじ)
奈良市にある法相宗の大本山。南円堂や五重塔などの建築物が有名で、噺の中で名所巡りの一つとして登場します。
南大門(なんだいもん)
東大寺の正門。巨大な仁王像があることで有名で、喜六と清八が「仁王さんに挨拶」したという描写があります。
鹿せんべい
奈良公園の鹿に与えるせんべい。噺の中で喜六と清八が「自分たちで食べながら」という滑稽な場面に使われます。
目から鼻へ抜ける
「賢い、機転が利く」という意味の慣用句。この噺では、文字通り大仏の目から鼻の穴へ抜け出すという物理的な行動と慣用句の意味を重ねたオチになっています。
南円堂(なんえんどう)
興福寺の重要な建築物。西国三十三所観音霊場の第九番札所で、奈良見物の定番コースに含まれています。
五重塔(ごじゅうのとう)
興福寺の五重塔。高さ約50メートルで、奈良のランドマークの一つ。喜六と清八の見物コースに含まれています。
印判屋(いんばんや)
印鑑を扱う店。ここでは猿沢池のほとりにある宿屋を指しています。江戸時代には印判屋が宿屋を兼業することもありました。
よくある質問 FAQ
Q1: 大仏の目玉が落ちるというのは実話ですか?
A1: いいえ、完全な創作です。実際の大仏の目は落ちるような構造にはなっていません。この噺は奇想天外な設定で笑いを取る滑稽噺です。
Q2: なぜ老人と孫が修理を買って出たのですか?
A2: 噺の設定では、老人と孫が見事な連携プレーを見せることで、「目から鼻へ抜ける」というオチにつなげるためです。二人の技と知恵が話の核心となっています。
Q3: 孫はどうやって大仏の目まで上ったのですか?
A3: 老人が投げた縄を伝ってスルスルと上りました。大仏の下の瞼に鉤を引っ掛け、その縄を孫が登るという設定で、見事な連携プレーを表現しています。
Q4: なぜ孫は大仏の中から出られなくなったのですか?
A4: 目玉を内側からはめ込んだ後、上って来た目の部分からは出られなくなったためです。見物人が心配する展開が、オチへの伏線になっています。
Q5: 「目から鼻へ抜ける」の意味は?
A5: 「賢い、機転が利く」という慣用句です。この噺では、実際に大仏の目(の部分)から鼻(の穴)へ抜け出すという物理的な行動と、孫の賢さを同時に表現する見事なオチになっています。
Q6: この噺の教訓は何ですか?
A6: 困難な状況でも知恵と機転で解決できるという教訓があります。また、慣用句を文字通りの状況として再現する言葉遊びの面白さも、この噺の魅力です。
名演者による口演
三代目桂米朝
米朝は奈良の名所を丁寧に紹介しながら、大仏の巨大さと孫の小ささの対比を見事に表現しました。特に孫が縄を伝って上る場面や、鼻から抜け出す場面の描写が秀逸で、聴衆の想像力を大いに刺激しました。
五代目桂文枝
文枝は喜六と清八の掛け合いを軽妙に演じ、奈良見物の楽しさを表現しました。鹿せんべいを自分たちで食べるという滑稽な描写や、見物人として騒動を見守る二人の反応が印象的でした。
六代目笑福亭松鶴
松鶴は老人と孫の連携プレーを詳細に描き、緊迫感から安堵への転換を巧みに表現しました。見物人が「ナンマンダブツ」と唱える場面から、鼻から抜け出した時の歓声までの流れが見事でした。
三代目桂春団治
春団治は「目から鼻へ抜ける」というオチを際立たせる演出をしました。慣用句と実際の行動が重なる瞬間の面白さを、絶妙な間で表現し、観客を大いに笑わせました。
二代目桂枝雀
枝雀は喜六と清八の慌てふためく様子を大げさに演じ、観客を笑いの渦に巻き込みました。見物人として右往左往する二人の姿が、騒動をより面白くする演出でした。
関連する落語演目
東の旅

喜六と清八の旅噺。「奈良名所」と同様に、二人の珍道中を描いた人気シリーズです。
時そば

言葉遊びが光る噺。「奈良名所」の「目から鼻へ抜ける」のオチと同様、言葉の妙が魅力です。
大仏餅

大仏を題材にした噺。「奈良名所」と同様に、奈良の大仏が登場する古典落語です。
文七元結

困難を知恵で乗り越える噺。「奈良名所」の孫の機転と同様、人間の知恵が光る作品です。
目黒のさんま

旅先での珍騒動。「奈良名所」と同様に、旅の途中で起きる予想外の出来事が笑いを生みます。
この噺の魅力と現代への示唆
「奈良名所」は、言葉遊びと機転を巧みに織り交ぜた傑作です。
大仏の目玉が落ちるという奇想天外な設定は、聴衆の想像力を刺激します。巨大な大仏と小さな孫という対比が、視覚的なイメージを豊かにし、物語に引き込まれます。
老人と孫の連携プレーは、世代を超えた協力の大切さを示しています。老人の経験と知恵、孫の若さと機敏さが合わさることで、困難な状況を解決できるという教訓があります。現代社会でも、世代間の協力は多くの問題解決に必要です。
孫が大仏の中に閉じ込められるという緊迫した状況から、鼻から抜け出すという安堵への転換は、物語の緩急を生み出しています。困難な状況でも諦めずに解決策を見つける姿勢は、現代人にも必要な心構えです。
最後の「目から鼻へ抜ける」というオチは、言葉遊びの極致です。慣用句を文字通りの状況として再現することで、二重の意味を持たせています。孫の賢さを表現しながら、実際の物理的な行動も描くという、古典落語ならではの言葉の妙が光ります。
この噺は、観光名所を題材にしながらも、世代間の協力、困難への対処、言葉遊びの面白さという、普遍的なテーマを含んでいます。奈良の大仏という具体的な舞台設定が、物語に説得力と親しみやすさを与えているのです。
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