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【古典落語】くやみ あらすじ・オチ・解説 | 葬式で惚気話の究極空気読めない男コメディ

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話芸の殿堂-古典落語-胡椒のくやみ
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くやみ

3行でわかるあらすじ

葬式の受付で、適切なくやみ(弔問)をする人と不適切なくやみをする人たちを描いた作品。
美しい女中が模範的なくやみをする一方で、手伝いの又はんが葬式の場で25年間の夫婦の惚気話を延々と語る。
受付の人が「今晚、わいの葬式が出るかも」というオチで終わる、空気の読めない人をコミカルに描いた人情噺。

10行でわかるあらすじとオチ

くやみ(弔問)は半分は顔の表情で言い、残り半分は何を言っているかわからないほど有り難味があるものとされる。
上手な人は「ほんまに何と言うことで…さよか…ほんまに…さいなら」程度で十分役割を果たす。
下手な人は余計なことを言い過ぎ、保険の話や個人的な近況報告をしてしまう。
炭屋の大将が真っ黒な手のまま来て、恩返しと称して炭の宣伝をして帰る。
次に最上屋の美人女中が現れ、静かで低い声でくやみの手本のような完璧な弔問をする。
受付の人は美人に舞い上がって話を引き留めたがるが、女中は冷ややかに丁寧に断って帰る。
最後に手伝いの又はんが登場し、受付の人は「あいつは女房の惚気を言う悪い病気」と警戒する。
又はんは隠居への恩義を語りながら、25年間一度も喧嘩したことがない夫婦の惚気話を延々と語る。
都都逸まで歌って妻への愛情を表現し、早く帰って妻を安心させたいと言って帰る。
受付の人は「まともに心臓にこたえた。今晚、わいの葬式が出るかも」と嘆いてオチとなる。

解説

「くやみ」は上方落語の人情噺の代表作で、葬式という厳粛な場での人間模様をユーモラスに描いた傑作です。

この落語の最大の魅力は、同じ弔問という行為でも人によって全く異なる表現になることを巧妙に対比させている点にあります。
作品は弔問の「理想形」と「問題例」を段階的に示すことで、日本人の社交マナーに対する鋭い観察眼を披露しています。
最上屋の美人女中が見せる完璧なくやみは、江戸時代の女性の教養の高さと所作の美しさを表現しており、一方で又はんの空気の読めない惚気話は、人間の根本的な自己中心性を愛らしく描いています。

この作品の構成は「序破急」の形式を踏襲し、序(一般的なくやみ論)、破(様々な人物の登場)、急(又はんの長話とオチ)という流れで展開されています。
オチの「今晚、わいの葬式が出るかも」は誇張表現による笑いを誘いつつ、聞き手の心労を表現した見事な締めくくりとなっています。
現代においても冠婚葬祭での空気の読めない行動は共感を呼ぶテーマであり、時代を超えて愛され続けている理由がここにあります。

あらすじ

くやみは半分は顔の表情で言い、あとの半分は何を言っているのか分からないほど、有難みがある。「ほんまに何と言うことで・・・やっぱりよほど前から・・・あんなええ人が・・・さよか・・・へえへえ・・・ほんまに・・・まだ、お若いのに・・・そらぁ、・・・さいなら」、これは上手い方で最初と最後だけ聞こえれば十分くやみの役割を果たしている。

下手な人は余計なことを言い過ぎる。「えらいこってしたなあ・・・隠居はんかて悪気があって死にはったわけやないやろ・・・保険はだいぶ入ってはったんでそうで・・・保険と言えばうちの息子、保険会社に就職が決まったて喜んでますような・・・どうぞまあ、皆さんによろしゅう・・・」、
受付甲 「何だんねん、あの人の今の挨拶。
そやけど、おもろいもんでんな。いろんな人が来るさかい」

炭屋の大将が真っ黒な手のままやって来た。「隠居はんが死んだちゅうんで、まあ、びっくりして飛んで来たようなこって・・・今の店も親父が死んだとき可哀そうにと、隠居はんの世話で借ってもろたんで・・・御恩返しに一生懸命勉強して・・・炭かて炭団かてよその店とは違いまっせ・・・一ぺん使てもろたら値打ちが分かります。・・・炭が要るような時には是非一つ、へえ。
お値段の方はまた相談に乗りますがな。
頼んまっさ。ほな、さいなら」と、炭の宣伝をして帰ってしまった。

次に来たのが町内で噂の最上屋の別嬪な女中(おなごし)さん、「おじゃまをいたします。表の最上屋から参りました。・・・承りますれば・・・ご愁傷様で・・・主人がどうしても手が離せない用事で・・・ほんの些少ではございますけれども、御仏前へ・・・」と、静かに低い声でくやみの手本のようだ。

受付乙 「まあまあ、これは結構なお祝いを」なんて、別嬪さんを前に舞い上がっている。
なんとか引き留めて話をしたいとべんちゃらを並べるが、女中さんは、冷ややかに丁寧にことわって帰って行ってしまった。

がっかりしてしていると、路地から手伝い(てったい)の又はんが入って来た。
受付乙 「ちょっとすまん。受付代わっとくれ」
受付甲 「何でやねん」
受付乙 「あの人には悪い病気がおまんのやがな。嫁はんののろけを言いまんねん」
受付甲 「嫁はんのろけぐらい何だんねん。
おもろいやないか。でも葬礼の家へくやみ言いに来て女房ののろけ話はしないやろ」
受付乙 「そうとは思うが、あいつののろけは時や人、場所を選らばへんよって・・・又はん、お越し」

又はん 「えらい遅(おそ)なりまして。・・・ここの隠居はんみたいな面倒見のええ人はいまへんで。・・・わてがまだ若くて独身(ひとりみ)の時分、・・・この家の土蔵の建て替えを手伝って壁塗って・・・向かい側の薬の大和屋の座敷に見えたの女中(おなごし)が、今の家内でんねん」

受付乙 「・・・ほら、ぼちぼち始まったで」

又はん 「・・・壁塗りながら向こうを見て・・・針仕事をしながらこっちを見て・・・思はず見かわす顔と顔・・・それが縁でうどん屋に行ったり、寿司食いに行ったり・・・とうとうややこしいことになって・・・このことが薬屋の主人にばれて・・・中に入ってくれたのがここの隠居はんでんねん。・・・おかげで夫婦になって二十五年、一ぺんも喧嘩なんぞしたことおまへん。・・・(長々とのろけ、書くのもつらい)・・・・・わて都都逸が好きで、あいつの三味線で、テトーン、テトーン(口を押えて)、文句だけ聞いてもらいますわ。”この舌で嘘をつくかと思えば憎い、♪咬(か)んでぇーやりたいー時もあるぅー”、言うたら、三味線放り出してわたいの膝へ・・・今時分あいつ心配して待ってるやろ、早よ帰って顔見せて安心させてやりまっさ。さいなら、ごめん」

受付甲 「・・・えらいのろけやなあ。こうまでひどいとは思はなんだ。・・・あんた、どないしなはりやった」

受付乙 「あんた、わたいが代わってくれ言うてんのに代わってくれんさかい、まともに心臓にこたえたがな。今晩、わいの葬式が出るかも」

落語用語解説

くやみ(悔み・弔問)

人の死を悼み、遺族に対してお悔やみの言葉を述べることです。この噺では「くやみは半分は顔の表情で言い、あとの半分は何を言っているのか分からないほど、有難みがある」と表現されており、言葉よりも態度や雰囲気が重要であることを示唆しています。江戸時代から、弔問は社交上の重要なマナーとされていました。

ご愁傷様(ごしゅうしょうさま)

人の死に際して遺族に述べる定型的なお悔やみの言葉です。「愁傷」は心を痛めること、悲しみのことを意味します。この噺では最上屋の女中が「承りますれば…ご愁傷様で…」と完璧なくやみの手本を示しています。

女中(おなごし・じょちゅう)

商家や裕福な家で働く女性使用人のことです。「おなごし」は上方言葉で女性を指す丁寧な表現です。この噺では最上屋の美人女中が模範的な弔問をする場面と、大和屋の女中が又はんの妻となる場面の二つで登場します。

手伝い(てったい)

日雇いの労働者や手間仕事をする職人のことを上方では「てったい」と呼びました。この噺の又はんは壁塗りなどの手伝い仕事をする職人で、隠居の恩を受けて妻を娶ることができた人物として描かれています。

惚気(のろけ)

自分の恋人や配偶者への愛情を嬉しそうに語ることです。通常は聞き手にとっては退屈で不快なものとされ、特に場所柄をわきまえない惚気は嫌われます。又はんは葬式という厳粛な場でも惚気を語ってしまう「悪い病気」として描かれています。

都都逸(どどいつ)

江戸時代後期に流行した短い歌謡の一種で、七・七・七・五の音数律を持ちます。恋愛や人情を題材にした艶っぽい内容が多く、三味線の伴奏で歌われました。又はんが歌う「この舌で嘘をつくかと思えば憎い、咬んでやりたい時もある」も典型的な恋愛都都逸です。

御仏前(ごぶつぜん)

仏式の葬儀や法事で、故人に供える金銭を包んだ香典のことです。「御霊前」とも言いますが、仏教では「御仏前」が一般的です。最上屋の女中が「ほんの些少ではございますけれども、御仏前へ」と差し出す場面は、正式な弔問作法を示しています。

受付(うけつけ)

葬式や法事で、弔問客を迎えて香典を受け取り、記帳をしてもらう役割の人です。遺族の代わりに対応するため、マナーと忍耐力が求められます。この噺では二人の受付が様々な弔問客に対応し、特に又はんの長い惚気話に苦しめられます。

よくある質問

Q1: なぜくやみは「何を言っているのか分からないほど、有難みがある」のですか?

A1: 弔問では明瞭に長々と話すよりも、悲しみで言葉にならないような雰囲気を出すことが重要とされていたからです。「ほんまに何と言うことで…さよか…ほんまに…」というように、言葉を濁しながら感情を込めて話すことで、真摯な悲しみが伝わるという考え方が江戸時代にはありました。これは日本人の「察する文化」や「言葉にならない感情」を重視する美意識の表れです。

Q2: 最上屋の女中のくやみがなぜ「手本のよう」と評価されたのですか?

A2: 女中は「静かで低い声」で、必要最小限の言葉だけを述べ、香典を差し出して速やかに帰ろうとしました。余計な話をせず、受付の引き止めも冷ややかに丁寧に断る姿勢は、弔問の理想形とされました。また、美人であることも相まって、その所作の美しさと教養の高さが際立ち、完璧な弔問として描かれています。

Q3: 又はんはなぜ葬式の場で惚気話をしてしまうのですか?

A3: 又はんにとって隠居は恩人であり、その恩義を語る中で自然と妻との出会いの話になり、そこから惚気話が止まらなくなってしまったのです。噺では「時や人、場所を選ばへん」悪い病気として描かれており、又はんは空気を読めない性格として設定されています。しかし、その裏には25年間一度も喧嘩したことがない幸せな夫婦関係があり、愛すべき欠点として描かれています。

Q4: 最後のオチ「今晩、わいの葬式が出るかも」の意味は何ですか?

A4: 受付の人が又はんの長い惚気話を「まともに心臓にこたえた」ほど苦痛に感じ、それが原因で死んでしまうかもしれないという誇張表現です。葬式の受付という大変な役割に加えて、場違いな惚気話を延々と聞かされたストレスを、ユーモラスに表現したオチです。実際に死ぬわけではありませんが、それほど辛かったという気持ちが込められています。

Q5: この噺は江戸落語と上方落語のどちらですか?

A5: 「くやみ」は上方落語の演目です。「おまへん」「でんねん」といった上方言葉や、「おなごし」という上方独特の女性の呼び方、都都逸という文化要素が使われています。また、人情噺として温かみのある人間描写が特徴的で、上方落語らしい柔らかな笑いと人間観察の鋭さが光る作品です。

名演者による口演

三代目 桂米朝

上方落語の重鎮として、「くやみ」でも人間の機微を細やかに演じ分けました。特に最上屋の女中の上品な所作と、又はんの空気の読めない惚気話の対比を見事に表現し、それぞれのキャラクターに深みを与えました。米朝師匠の演じる「くやみ」は、笑いの中にも人間への温かい眼差しが感じられる高座として評価されています。

三代目 桂春團治

伝統的な上方の語り口を守りながら、「くやみ」でも独特の間とテンポで演じる名手でした。受付の二人の困惑した様子や、又はんの止まらない惚気話を、絶妙なタイミングで聞かせる技術に優れていました。

桂枝雀

独特のハイテンションな演技で知られる枝雀師匠は、「くやみ」でも又はんの惚気話を大げさに表現し、客席を爆笑の渦に巻き込みました。特に都都逸を歌う場面や、妻への愛情表現を身振り手振りで演じる姿は圧巻でした。

六代目 桂文枝

テレビでも活躍した文枝師匠は、「くやみ」を現代の聴衆にもわかりやすく親しみやすい形で演じました。葬式での様々な弔問客の描写を丁寧に行い、又はんの惚気話が場違いであることを明確に示しながらも、その愛らしさも表現する巧みな演出が特徴でした。

関連する演目

この噺と同じく、冠婚葬祭でのマナーや、夫婦の情愛、空気の読めない人物を描いた落語をご紹介します。

この噺の魅力と現代への示唆

「くやみ」は、冠婚葬祭における「空気を読む」ことの大切さを、ユーモラスに描いた作品です。現代社会でも、TPO(時・場所・場合)をわきまえることの重要性は変わりません。葬式で保険の話をしたり、炭の宣伝をしたり、惚気話をしたりする行為は、現代でも「空気が読めない」として批判されるでしょう。

この噺の魅力は、様々な弔問客を段階的に示すことで、「良い弔問」と「悪い弔問」の違いを明確にしている点にあります。最上屋の女中の完璧な弔問は、言葉を尽くすのではなく、態度と雰囲気で哀悼の意を示すという日本的なコミュニケーションの理想形を表現しています。

一方で、又はんの惚気話は単なる「空気の読めない行為」として批判的に描かれているわけではありません。25年間一度も喧嘩したことがない幸せな夫婦関係は、実は多くの人が羨むものであり、又はんの行為は愛すべき欠点として描かれています。現代でも、SNSで自分の幸せを過度にアピールする「リア充アピール」や「幸せアピール」は、時に周囲を不快にさせることがありますが、その本人は悪気がないという点で共通しています。

また、この噺は受付という役割の大変さも描いています。様々な性格の人々に対応しなければならない受付の苦労は、現代のサービス業や接客業にも通じるものがあります。「お客様は神様」という言葉がありますが、実際には様々な「神様」がいて、その対応に苦労する現場の人々の姿は、江戸時代も現代も変わりません。

「くやみ」は、人間観察の鋭さと、社交マナーの本質、そして空気の読めない人への温かい眼差しが詰まった、まさに上方落語の人情噺の傑作です。機会があれば、ぜひ実際の高座でお楽しみください。

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